オピオイド

内科

モルヒネなどのオピオイドは、安全で、投与経路が様々あり、調節しやすく、効果が確実で、体性痛・内臓痛・神経痛いずれにも効果を期待できる鎮痛薬であり、がん性疼痛に対して世界中で用いられている (UpToDate)。

基本的には緩和ケアレジデントマニュアル 第2版【電子版】緩和治療薬の考え方,使い方 ver.3UpToDate の情報をもとに記載する。煩雑に過ぎるので、直接引用の場合や特に明示したい場合を除き、これらからの情報に出典は逐一は付さない。

投与経路

WHOガイドラインの通り、経口投与が原則であるが、状況によって様々な経路から投与できるのがオピオイドの強みである。

経口投与

簡便で侵襲もなく、がんによる慢性疼痛には最も好ましい投与経路である。他方、大多数のがん患者は、経過のどこかで経口以外の投与経路を必要とするようになる1

「口内炎、嚥下障害、消化管閉塞、悪心・嘔吐、せん妄、オピオイドの高用量投与や急速なオピオイド増量が必要な時」2は経口投与は適さない。

直腸内投与

比較的簡便だが、投与に不快感がある。直腸内投与の力価は経口投与と同等であると考えられているが、吸収率は様々であり、経口投与と直腸内投与をスイッチする場合には等価量から減量するのが一般的である3

経皮投与

消化管吸収不良例、嚥下困難例、内服アドヒアランス不良例などで検討する。

貼付部位の下の皮下組織が乏しい場合、薬剤の成分が皮下に貯留できないまま代謝されてしまい、有効濃度に達しない可能性がある。年齢や貼付部位による吸収率の差はないが、個体差は大きいし、発熱・入浴などで体温が上がると吸収速度が上がる可能性がある。

血中濃度が安定するまでに半日〜数日かかるため、開始・調整後72時間は増量しない

注射薬

4~12時間で血中濃度が安定するため、調整しやすい。レスキュー時も5-15分で早急に効果がある。

皮下投与

低侵襲、安全、簡便である。皮膚からの吸収は上限約 1 mL/h であり、レスキューと合わせてそれ以上の量を投与する必要があれば、希釈倍率を変えて濃度を上げるか静脈投与に変える必要がある。なお、皮下投与と静脈内投与の間の変更では、用量を変更する必要はない。

筋肉内投与

痛みを伴う投与法であること、吸収が不安定で薬理学的なメリットがないことから、通常は行わない。

オピオイドの始め方

2018年のガイドライン改定で除痛ラダーは削除されており、NRS 4 以上の中等度以上の痛みにははじめから強オピオイドで対応することが推奨されている。

以下のような開始の仕方があるが、速放性製剤からの開始と徐放性製剤からの開始を比較した場合、望ましい鎮痛効果に至るまでに要する時間・副作用に大差はないことが知られている。

速放性製剤での開始

速放性製剤の疼痛時頓用から開始し、1日必要量がわかればそれに相応する量の徐放性製剤に切り替える。

  • 速放性製剤
    • モルヒネ塩酸塩4(オプソ)1回5mg
    • オキシコドン(オキノーム)1回2.5mg
    • ヒドロモルフォン(ナルラピド)1回1mg

徐放性製剤での開始

徐放性製剤の最小用量の内服で開始する。レスキューとして徐放性製剤1日量の10~20%の速放性製剤を処方しておく。

  • 徐放性製剤
    • ヒドロモルフォン(ナルサス)1日1回
    • モルヒネ硫酸塩(MSコンチン)1日2回
    • オキシコドン(オキシコンチン)1日2回

注射薬での開始

内服困難例では、持続静脈内投与や持続皮下投与から開始する。徐放性製剤の最小用量と等価の用量から開始するのが原則だが、全身状態などによって3〜5割減量して開始することもある。

貼付薬での開始

内服薬と異なり、過量投与で眠気や意識レベル低下を来しても、貼付されている限り無関係に投薬され続けることになる。したがって、ほかに手段がなく、過量になったら剥がすことができる症例に限って、貼付薬からの開始を考慮できる。原則としては初回導入には適さない。

最小用量のフェンタニル(フェントス)0.5 mg から開始し、増量は2〜3日おきに行い、傾眠・呼吸抑制をモニタリングする。

突出痛への対応(レスキュー)

突出痛は発生からピークまで5-10分程度で持続時間30分程度であることが多い。他方、短時間作用型オピオイドの経口薬は効果発現に20-30分を要するため、眠気・悪心などの副作用を生じるのみで効果的に鎮痛できない場合もある。痛みが悪化する動作の前に予防的に投与する、免荷を行う、放射線治療など他の鎮痛手段を図ることなどを検討する必要がある。

フェンタニルの口腔粘膜吸収型製剤は10-15分で効果が現れるため有効だが、呼吸抑制のリスクには注意が必要である。注射薬が導入されていれば、強オピオイド注射薬ボーラスは静脈で2.5-5分、皮下で5-15分で効果が現れる。

オピオイド製剤各論

代謝経路代謝産物の活性
モルヒネグルクロン酸抱合あり
オキシコドンCYPあるが生成量は少ない
フェンタニルCYPなし
ヒドロモルフォングルクロン酸抱合なし(神経毒性あり)
主要なオピオイドの生合成経路と特徴。構造式は wikimedia commons より。

モルヒネ

中等度以上の痛みに対するオピオイドのプロトタイプ。歴史が長く使用経験が豊富であることから強オピオイドの第1選択薬とされるが (森田ほか)、ヒドロモルフォンやオキシコドン、フェンタニルなどの他のμアゴニストに対する優越性は証明されておらず、特別優先して選択すべき “drug of choice” ではない (UpToDate)。

グルクロン酸抱合で代謝されるため薬物相互作用は少ない。代謝産物のM3Gには神経毒性が、M6Gにはオピオイドとしての活性があり、これらは腎排泄されるため、腎機能低下例では代謝産物の蓄積による有害事象をきたすおそれがある。

モルヒネのポイント
  • 呼吸困難には (相対的に) もっともエビデンスのあるオピオイドである5
  • 高濃度製剤アンペック注があるため、皮下投与でも最大 960-1920 mg/day の多量の投与が可能である
  • M3G, M6G が蓄積する恐れがあり、腎機能低下例では投与を避けるのが原則である
  • 慣習的にほかのオピオイドが効果不十分なときに切り替えて投与することがある

オキシコドン

鎮痛効果・副作用はモルヒネとほぼ同等 (森田ほか)。CYP3A4, CYP2D6の代謝を受ける。後者によって生じるオキシモルフォンには活性があるが、生成量が少ないため、腎障害でもモルヒネよりは使いやすい。「特徴に乏しい薬」と述べる緩和ケア医もいる(伝聞)。

研究レベルでは、神経障害性疼痛に対してモルヒネより有効であるとの報告もあるが、臨床試験では差は示されていない (緩和治療薬の考え方,使い方 ver.3)。呼吸困難にもモルヒネ同等の効果があると推定されるが、明らかなデータはない (同上)。

オキシコドンのポイント
  • 特徴に乏しいオピオイド
  • 活性代謝産物の量が少なく、腎障害でもモルヒネよりは使いやすい
  • 呼吸困難にも効くかもしれない

フェンタニル

合成オピオイドである。鎮痛効果はモルヒネとほぼ同等だが、特にフェンタニル貼付薬は消化肝毒性や眠気のリスクが他のオピオイドより少ない (≒眠気を呈することなく突然呼吸抑制を生じうる、私見)。

経皮吸収役のフェントステープが存在するため、内服困難な場合にも使いやすい。ただし、ほかのオピオイドに比して、高用量になると効きづらくなっていく。また、比較的速やかに効果が現れる舌下製剤のアブストラル、頬粘膜吸収錠のイーフェンバッカルが存在する。効果発現までは10分程度で、経口モルヒネ速放剤よりは早いが、モルヒネ注には劣る。

CYP3A4の代謝を受け、ノルフェンタニルという非活性の物質となるため、腎機能低下例でも安全に使用できる。

フェンタニルのポイント
  • 消化管毒性や眠気が少ない(呼吸抑制注意!)
  • 経皮吸収薬(フェントステープ)が存在する
  • 経口粘膜吸収型の速放剤(アブストラル、イーフェンバッカル)が存在する
  • 腎機能低下例でも安全に使用できる

トラマドール

コデインの誘導体。制度上は麻薬扱いにならず、手続きや患者心理の点では扱いやすい。他方、有効性も、便秘・悪心などのリスクも、ほかのオピオイドとの有意な差は示されていない。

CYP2D6で代謝されるため薬物相互作用が問題になりやすく、オンダンセトロンとの併用による効果減弱、SSRI・三環系抗うつ薬との併用によるセロトニン症候群リスクの上昇に注意を要する。

あくまで弱オピオイドであり、NRS≧4の中等度以上の痛みでは効果に乏しいわりに相応の副作用がある。森田は「トラマール6Tで効果不十分なら強オピオイドへの変更」を考えるとしている6

ヒドロモルフォン

世界的には100年以上の使用歴がある。モルヒネの誘導体で、効果や副作用はモルヒネ・オキシコドンとほぼ同等であり、緩和ケア医いわく「腎機能低下例で比較的使いやすいモルヒネ」。内服薬の徐放剤は血中半減期が長く、1日1回投与が可能。また、徐放剤の最小用量が1回2mgで他剤より少量から導入できる7

未変化体が鎮痛効果を有し、そのまま腎排泄されるが、30%程度がグルクロン酸抱合でH3Gに代謝される。H3GにはM3Gの2.5倍の神経毒性があるため、肝・腎機能障害時は減量する必要がある。

ヒドロモルフォンの内服と注射の間の換算比は未だ定まっておらず、往復で換算比が異なる(単なる逆数ではない)可能性がある。中間程度の値を両方向で用いて実務上あまり問題にならないとする医師もいるが、森田らの書籍8は往復で異なる換算比を提示している。

ヒドロモルフォンのポイント
  • 高濃度製剤があり、皮下持続注射で多量投与が可能である
  • 少量 (2mg) 1日1回から開始できる
  • 内服と注射の換算比の計算が煩雑である
  • 徐放剤ナルサスとレスキュー薬ナルラピドの見た目が似ており、誤内服のリスクがある

脚注

  1. Cancer pain management with opioids: Optimizing analgesia | UpToDate ↩︎
  2. 緩和ケアレジデントマニュアル 第2版【電子版】 p70 ↩︎
  3. Cancer pain management with opioids: Optimizing analgesia | UpToDate ↩︎
  4. ジェネリックのモルヒネ塩酸塩は非癌にも適応がある。オプソは添付文書上は癌による疼痛のみ。モルヒネ硫酸塩、MSコンチンはいずれも癌による疼痛のみ。 ↩︎
  5. 緩和治療薬の考え方,使い方 ver.3 の記載によれば、2016年のコクランレビューでは質の低いエビデンスの存在を認められていたものの、その後はオピオイド定期投与の有効性を示せない研究が相次いでいる。モルヒネとそのほかのオピオイドで呼吸困難に対する効果が異なるのか否かは専門家によって見解が異なる。 ↩︎
  6. 緩和治療薬の考え方,使い方 ver.3 p73 ↩︎
  7. 添付文書上は最小 4mg だが、年齢や体格によっては 2mg から開始することを考慮する(伝聞) ↩︎
  8. 緩和ケアレジデントマニュアル 第2版【電子版】緩和治療薬の考え方,使い方 ver.3 ↩︎

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