喘息

ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版 8章 喘息/COPDの内容がほぼほぼ GINA の文書をもとに記載されているよう。GINA の文書の原文も有料だが PDF で入手できる。これらをもとにここでも記載する。

喘息のコントロール状況の評価

喘息症状のコントロールの評価

喘息の症状が患者の負担になることはもちろん、喘息症状のコントロールが悪いと増悪(発作)のリスクも高い。

A. Assess symptom control

  • 過去4週間について、
    • 日中の症状は週に3回以上あったか?
    • 夜間に喘息で目が覚めることはあったか?
    • SABA reliever1 は週に3回以上必要だったか?
    • 喘息のために活動が制限されたか?
  • 上記の該当項目数につき、
    • 該当なし:Well controlled
    • 1-2項目:Partly controlled
    • 3-4項目:Uncontrolled

リスクファクターのコントロールの評価

増悪(発作)、肺機能の喪失、薬剤の副作用のリスクを増す要因がないか評価する。

B. Assess risk factors

  • B.1. 急性増悪のリスク
    • 喘息症状が uncontrolled である
    • そのほか、症状がほとんどない場合であっても、
      • SABA過剰使用 (≧3 x 200-dose canisters/年)
      • ICS不十分 (ICS未使用、アドヒアランス不良、吸入手技の誤り)
      • 身体の状態 (肥満、慢性鼻副鼻腔炎、GERD、確定した食物アレルギー、妊娠)
      • 抗原暴露 (感作されている場合)、喫煙 (smoking or vaping)、大気汚染
      • 主要な心理的・社会経済的な問題
      • 呼吸機能低下 (特にFEV1<60% predicted)、気管支拡張薬に対するFEV1反応性の高さ
      • 2型炎症の指標(好酸球↑、FeNO↑)
      • 過去1年間の重症急性増悪、または喘息による挿管やICU入室の既往
  • B.2. 気道狭窄が永続化するリスク
    • 早産、低出生体重と幼少時の急速な体重増加、頻回の湿性咳嗽
    • 重症な急性増悪歴のある患者においてICSを使用していないこと
    • タバコや有害な化学物質への暴露
    • 初回 FEV1 が低いこと
    • 痰や血液中の好酸球値が高いこと
  • B.3. 薬剤の副作用のリスク
    • 全身:頻回の経口ステロイド、長期にわたる高用量または高力価のICS、CYP阻害薬
    • 局所:高用量または高力価のICS、吸入技術不良

呼吸機能の評価

ICS開始前、その3〜6ヶ月後、その後最低で1〜2年毎に呼吸機能検査を行う。リスクに応じてより頻回の検査を検討する。

そのほかの評価事項

  • 治療の評価:現在の治療、その副作用、吸入手技、アドヒアランスを評価する。アクションプランを確認する。患者が治療のゴールをどこに置いているか、どのような治療を好むかを尋ねる。
  • multimorbidity:症状を誘発したり、QOLに影響したり、喘息のコントロールを難しくする要因がないか確認する。鼻炎、鼻副鼻腔炎、GERD、肥満、睡眠時無呼吸、うつ、不安など。

喘息の重症度の評価

喘息の重症度は通常、症状を抑え急性増悪(発作)を防ぐために必要な治療のレベルにより判断する。

難治性の喘息 (difficult-to-treat asthma)

  • medium-dose から high-dose のICSに加え、2種類目のコントローラー(通常LABA)か経口ステロイドを投与したうえで、uncontrolled であるもの
  • 症状のコントロール、増悪リスク低減のために high-dose の治療を要するもの

重症 (severe)

  • high-dose の ICS-LABA のアドヒアランスが良好であり、寄与因子を調整しているのに、uncontrolled であるもの
  • コントロールをつけるために high-dose の ICS-LABA を要するもの

軽症 (mild)

  • ICS-formoterol (シムビコート) 頓用か、low-dose の ICS 定期吸入で well controlled であるもの

uncontrolled の定義を思い出す。軽い喘鳴程度でも週に3回以上あり、それに対してSABAを頓用で使い、負荷のかかる運動を避けているとすれば、その時点で3項目該当で uncontrolled となる。重篤な急性増悪(発作)を起こしたことがなくとも「重症」たりえる。このような場合にSABA単独の頓用のみでの治療は危険であり、low-dose ICS かシムビコート頓用での治療をすることで、重篤な急性増悪の危険を1/2〜2/3に減らすことができる。

筆者メモ:
high-dose ICS-LAB を常用している時点で重症 severe、シムビコート頓用か low-dose ICS 定期であれば軽症 mild。"Difficult-to-treat" はおそらく重軽症とは独立した概念で、high-dose が必要だったりそれでもなおコントロールがつかなかったりするものを「難治性」と表現する。
定義の文面からして、「重症⇛難治性」は概ね成り立つが、逆は真ではない。難治性の定義にはアドヒアランスへの言及はなく、アドヒアランス不良のためコントロールが悪い例は「難治性」であるが「重症」とはいえない。

喘息の「治療」の原則

喘息の「治療」(management) の長期目標は、症状を長期的に抑え、急性増悪、気道のダメージ、薬の副作用を防ぐことにある。目的は患者にとって最善の結果をもたらすことであり、患者自身の目標、趣向を確かめることも重要である。

必ず ICS を処方する

重篤な急性増悪のリスクを下げるため、めったに症状がない場合であっても、ICSを含む処方が必須(必ずしも定期的に吸入する必要はなく、治療ステップによっては頓用でよい)。

ICSは診断後可及的速やかに開始する必要がある。なぜなら、①軽い喘息でも急性増悪し得、②ICSを含む処方によって入院・死亡リスクを低減でき、③早期に low-dose ICS を開始することで良好な呼吸機能を得られ、④急性増悪時の長期的な呼吸機能を良好に保つことができるためである。

短時間作用型の気管支拡張薬をリリーバーとして必ず所持する

リリーバーは ICS-formoterol、ICS-SABA、SABA いずれでもよいが、上記の事情により、思春期以後の症例では ICS-formoterol が望ましい。

SABA 頓用のみでの治療は推奨されない

SABA 単独の治療は急性増悪、呼吸機能低下、喘息死のリスクを上昇させる。喘息患者のほとんどは気道に炎症があるが、SABA を常用するとアレルギー反応や気道の炎症が増強し、SABA への反応性が落ちる。家庭でのネブライザーによる SABA 使用も喘息死リスクと関連する。

薬の選択

SABA単独とはせず、ICS を含む処方とする。ICS-formoterol をリリーバーに用いる anti-inflammatory reliever (AIR) 療法が望ましい (GINA の文書における “Track 1″)。”Track 2” としてSABAやICS-SABAをリリーバーに用いるプロトコルも記載されているが、Track 1 のほうが重篤な急性増悪のリスクが低いという強力なエビデンスがあり、かつシンプルである。

初期投薬

症例Track 1
<1-2日/週の症状発作時シムビコート 1吸入
<3-5日/週の症状で、呼吸機能は正常〜軽度低下発作時シムビコート 1吸入
・ほぼ毎日症状
・喘息のため1回/週以上覚醒
・呼吸機能が低下
シムビコート 1吸入1日2回
+ 発作時1吸入
(MART)
・毎日症状
・喘息のため1回/週以上覚醒
・呼吸機能低下
・現 喫煙者
シムビコート 2吸入1日2回
+ 発作時1吸入
急性増悪の最中急性増悪を治療する
シムビコート 2吸入1日2回
+ 発作時1吸入
GINA2 Table 3, 金城 et al3 より作成

治療ステップ

GINA2 Figure 5 参照(有料)。上記の初期投薬の表の行と、ステップ1〜5がほぼ対応するよう。ステップ4以上でコントロールがつかない場合は呼吸器内科医に紹介すべき。

3ヶ月以上コントロール良好であればステップダウンし、コントロールを維持できる必要最小限のところまで下げる。ただし、コントロール良好であったとしても、ICSを完全に止めることはしない

Track 1
Step 1発作時シムビコート 1吸入
Step 2発作時シムビコート 1吸入
Step 3シムビコート 1吸入1日2回
+ 発作時1吸入
(MART)
Step 4シムビコート 2吸入1日2回
+ 発作時1吸入
Step 5LAMA を追加する
表現型の評価のため紹介する
high-dose ICS-formoterol (シムビコート 4吸入1日2回) を考慮する
抗体製剤を考慮する
GINA2 Table 3, 金城 et al3 より作成

参考文献

脚注

  1. SABA reliever を使用中の例のみに適応し、シムビコートなどのICS-formoterol reliever 使用例には適応しない。運動前のSABA吸入は含まない。  ↩︎
  2. Global Initiative for Asthma (2025) 2025 Summary Guide for Asthma Management and Prevention For Adults, Adolescents and Children 6-11 Years. The full report is available from ginasthma.org/reports. ↩︎
  3. ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版8 喘息/COPD 表3, 14 ↩︎
  4. Global Initiative for Asthma (2025) 2025 Summary Guide for Asthma Management and Prevention For Adults, Adolescents and Children 6-11 Years. The full report is available from ginasthma.org/reports. ↩︎
  5. Global Initiative for Asthma (2025) 2025 Summary Guide for Asthma Management and Prevention For Adults, Adolescents and Children 6-11 Years. The full report is available from ginasthma.org/reports. ↩︎
  6. ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版8 喘息/COPD 表3, 14 ↩︎

コメント

タイトルとURLをコピーしました