急性呼吸窮迫症候群 (acute respiratory distress syndrome) は、敗血症や肺炎などによる全身の炎症反応亢進により、急速に生じる肺障害です。ベルリン定義で診断し、原疾患の治療と肺保護を行います。
その病態は、先行する基礎疾患によって生じる血管内皮・肺胞上皮の透過性亢進のために急速に非心原性肺水腫となるものです。基礎疾患を発症してから48時間以内に出現することが多いとされていますが、画像上の陰影の出現は12~24時間程度遅れることがあり、早期には画像では検出できない例もあります。
診断
重症肺炎・敗血症・高侵襲の手術などののち、急速に進むBの問題(呼吸困難・低酸素血症)が生じたとき、ARDSを考慮します。
ベルリン定義の4項目によって病歴や簡単な検査の所見で診断するのが原則ですが、鑑別すべき疾患も多数あるので、必要に応じて気管支肺胞洗浄なども視野に入れます。
- 急性発症:明らかな誘引 or 呼吸器症状出現/悪化から1週間以内
- 胸部画像:両側性陰影 (胸水、無気肺、結節のみでは説明できない)
- 肺水腫の原因:心不全や輸液加療のみで説明できない
- 酸素化障害:P/F比により、
- 200-300 mmHg → 軽症
- 100-200 mmHg → 中等症
- <100 mmHg → 重症
- 心原性肺水腫(左心不全)
- 肺炎
- 粟粒結核
- 急性間質性肺炎(AIP)
- 間質性肺炎・肺繊維症の急性増悪
- 特発性器質化肺炎(COP)
- 過敏性肺炎
- 急性好酸球性肺炎
- びまん性肺胞出血
- 癌性リンパ管症
- 薬剤性肺障害
治療
ARDS の治療は、原因疾患 (や基礎疾患) の治療と肺保護の2本柱です。体液量はややドライ気味に管理します。
原因疾患の治療
敗血症や重症肺炎が原因であれば抗菌薬投与を行います。
肺保護
リザーバー 10L でも SpO2≧90% を保てない場合、NPPV や HFNC (High flow nasal cannula; いわゆるネーザルハイフロー) を検討します。これらが困難であったり、禁忌であったり、奏功しなかったりした場合や、そもそも挿管すべき状況である場合には、挿管人工呼吸を考慮します。特に、Bの異常に加えて、A・C・Dの問題1を合併している場合には、挿管人工呼吸を検討すべきです。
- NPPV の治療失敗例、除外基準該当例
- 換気が不十分
- 酸素化が不十分
- 著明な呼吸筋疲労
- 気道確保が困難 (Glasgow Coma Scale 8点以下の持続的意識障害、口腔内出血や吐血など)
人工呼吸器設定
「低容量換気+PEEP」が ARDS の人工呼吸管理の原則です。
- 1回換気量 ≦ 10 mL/kg (6 mL/kg など2)、吸気終末プラトー圧 ≦ 30 cmH2O の低換気量の設定とする。換気量は実測体重ではなく predicted body weight で計算する。
- 換気量低下による PaCO2 の増加は許容し (permissive hypercapnia)、pH > 7.2、PaCO2 < 80 mmHg を目安とする。
- FiO2 は 1.0 で開始してから漸減し、低酸素血症を防ぐ。PaO2 が低い場合には、PEEP を 3-5 cmH2O ずつ上げていく3。PEEP は上限 20 cmH2O。
- 1日1回持続鎮静薬を中断することで、人工呼吸器離脱やICU退室が早まる。併せて自発呼吸を促すことで、生命予後が改善する。
呼吸理学療法
- 重症ARDS患者は、1日12時間以上、腹臥位にする。
- 左右側臥位を1-2時間毎に繰り返すことで、肺合併症を予防できる(持続的体位交換と同等)。
- 人工呼吸中はなるべく半座位を保つ;仰臥位と比べて肺炎が25%減少。
- 72時間以内にリハビリテーションを開始する。
その他
水分管理
循環動態が安定している場合は、水分制限や利尿を行い、中心静脈圧 < 4 mmHg (OR 肺動脈楔入圧 < 8 mmHg) を目標に管理することで、酸素化改善・人工呼吸器離脱が早まるとの報告があります。輸液はマイナスバランスとするのが原則です。
栄養管理
人工呼吸器管理開始後 24-48 時間以内の経管栄養導入を試みるべきとされています。
血糖管理
< 180 mg/dL で管理します
ステロイド
ARDS の生存率を改善する確たるエビデンスがある薬剤はありません。中等症異常の症例の発症早期には、mPSL 換算 1-2 mg/kg の少量ステロイドが生命予後を改善する可能性も指摘されています。急性期の大量のステロイド投与は感染症を悪化させる可能性があり、(少なくとも今日の臨床サポートの記載では) 推奨されていません。
参考文献
下記文献からの情報をもとに整理しました。
脚注
- A:喀痰多量や嘔吐リスクのため気道を保護できない。C:ショックなど循環動態が不安定。D (≒Aの異常の原因):意識障害がある、非協力的。 ↩︎
- レジデントのための呼吸器診療最適解ーケースで読み解く考えかた・進めかた では、6 mL/kg vs 12 mL/kg 群を比較した試験を引き、6 mL/kg の低容量換気が一般的としている。今日の臨床サポート はやはり同様に 6 mL/kg vs 12 mL/kg の試験は引いているが、同試験はあくまで 12 mL/kg が有害であることを示したのみで、6 mL/kg が適正であることを示してはいない、との立場に立っている。 ↩︎
- 陽圧によって循環抑制をきたす恐れもある。酸素化障害の程度や最高気道内圧などと併せ、患者ごとに個別に判断する ↩︎


コメント