肺血栓塞栓症 (PE) の重症度分類と治療

内科

PE の重症度分類と治療について、ガイドラインをもとに整理します。

重症度分類

PE の重症度分類。ガイドラインの表11、図9を参考に筆者作成。

心停止例は V-A ECMO による ECPR を考慮します。
それ以外では、ショックであれば直ちに高リスクに該当し、再灌流療法の適応となります。

ショックではない場合は以下のように分類されます。

  • 「sPESI = 0」かつ「右心機能障害がない」場合、低リスク
  • 「右心機能障害があり」かつ「心臓バイオマーカー陽性」の場合、中[高]リスク
  • 上記以外の場合、中[低]リスク

臨床評価 sPESI

患者背景やバイタルサインによって重症度を評価します。PESI やそれを簡易化した sPESI がガイドラインでは言及されています。

sPESI

下記の各項目1点で計算し、0点は low risk、≧1点は high risk とする

  1. 80歳以上
  2. 癌の既往
  3. 慢性心不全 or 慢性肺疾患
  4. 心拍数 ≧ 110/min
  5. 収縮期血圧 < 100 mmHg
  6. SpO2 < 90%

Jiménez, D. et al. (2010) Arch Intern Med.

sPESI (HOKUTO)PESI (HOKUTO)

右心機能障害

心エコーで右室機能不全があること自体が、独立した予後不良因子とされています。
下記のエコー所見がPEを示唆するものとしてガイドライン上指摘されていますが、いずれも感度は低く、除外には使えません。

PEを示唆する心エコー所見
  • 右室拡大1 (感度 55%、特異度 86%)
  • McConnell 徴候2 (感度 22%、特異度 97%)
  • 60/60徴候3 (感度 24%、特異度 84%)
  • 肺動脈圧↑
  • 中隔の扁平化 (感度 26%、特異度 95%)
  • 右心系の血栓 (感度 5%、特異度 99%)

心臓バイオマーカー

心臓への特異性の高いバイオマーカーを利用します。ガイドラインで提示されているカットオフ値は以下の通り。

カットオフ値単位
BNP75-100pg/mL
NT-proBNP600pg/mL
トロポニンT14pg/mL
トロポニンI

治療選択

「右心不全+呼吸不全の治療」と「血栓源 (DVT) からの PE 再発の予防」の二本立てになります。まずは入院か外来かの判断について概観したうえで、治療法について記載します。なお、本稿では抗血栓療法について主に記載し、右心不全+呼吸不全の治療については簡潔にとどめます。

治療法と治療の場の選択 (入院要否)

重症度別の治療法・治療の場の選択。ガイドラインの図9を参考に筆者作成。

再灌流療法は出血の危険も高く、高リスク例や中[高]リスク例で循環動態が悪化してきた場合に検討します。抗凝固療法には、古典的にはヘパリン+ワルファリンが用いられてきましたが、DOAC も適応が通っています。

治療はもっぱら入院下で行いますが、低リスク例では、他に入院すべき理由がなく、家族などの社会的サポートが期待でき、医療機関を容易に受診できる環境にある場合に限って、外来での治療も許容されています(リバーロキサバンによる外来治療により、PTE関連死 0 人であったとの報告あり)。

血栓源 (DVT) からの PE 再発の予防

抗凝固療法を行います。古典的にはヘパリン+ワルファリンが用いられてきましたが (IB)、現在のガイドラインでは血行動態が安定していれば DOAC の使用が IA で推奨されています。DOACは腎機能低下例で注意を要すること、薬剤によって急性期の用法用量が異なることに注意が必要です。エドキサバン (リクシアナ) は腎機能低下例にやや寛容ですが、急性期の高用量投与の適応はなく、ヘパリンなど他の抗凝固療法で治療を開始する必要があります。

抗凝固薬は少なくとも3ヶ月間は投与し、その後の継続要否はPEの誘引となった因子や出血リスクによって判断します。活動性のがん患者の場合には、癌が治癒しないかぎり継続します。

抗凝固療法の薬剤選択

抗凝固薬の使い分けの詳細はPE・DVTの抗凝固療法も参考にしてください。

血栓溶解療法

  • 血栓塞栓子を溶解し、肺循環を迅速に改善させる
  • モンテプラーゼが日本での保険適応を得ている
  • メタアナリシスで全死亡低下が示されているが、大出血リスクも有意に高い
血栓溶解療法の適応
  • ショックや低血圧が遷延する急性PTE (高リスク) には血栓溶解療法を施行 (IB)
  • 血圧は正常だが「右心機能不全&心臓バイオマーカー陽性」の例では、非経口抗凝固療法を行い、循環動態悪化時には血栓溶解療法を考慮 (IIaB)
右心不全+呼吸不全の治療

呼吸管理

  • PaO2 60 mmHg 以下、SpO2 90% 以下を閾値として酸素投与を行う
  • 高流量鼻カニュラ (HFNC、いわゆるネーザルハイフロー) を検討する
  • HFNCを含む酸素吸入で SpO2 ≧ 90% を維持できなければ挿管を考慮。 ただし、陽圧換気は右心不全増悪につながりうるので注意(胸腔内圧↑により静脈還流↓となり、右心不全が増悪)
  • 一回換気量は少なめに 6 mL/kg (理想体重) が推奨

循環管理

  • 肺血管床の減少、肺血管抵抗の増加(∵ 低酸素+ケミカルメディエーターによる肺血管攣縮)によって循環不全をきたします。
  • 容量負荷
    容量負荷の是非は基礎研究レベルでも決着が付いていない
  • 薬物療法
    • 血圧が保たれていればドブタミン、血圧低下例ではノルアドレナリン、という選択がなされることが多い (ガイドラインより) ノルアドレナリン vs ドパミンでは、ノルアドレナリンのほうが不整脈が少なく28日死亡が少ない
    • ドブタミンは心係数改善&肺血管抵抗低下の報告あり
    • ミルリノン (PDE3阻害薬) には強心作用とより選択的な肺血管拡張作用あり
  • NO吸入
    • NO吸入によって肺動脈を選択的に拡張させることができ、理論上は換気血流不均衡を改善できるが、臨床的なエビデンスには乏しい。心臓手術周術期のみ保険適応
  • V-A ECMO
    • 内科治療が奏功しない場合は、速やかに V-A ECMO を検討する

参考資料

脚注

  1. 右室/左室比 ≧ 0.9 となると右室機能不全と判断する ↩︎
  2. 右室心尖部の収縮は保たれ、右室自由壁の壁運動は低下する。https://www.youtube.com/watch?v=aLGB9V3YDQc ↩︎
  3. 右室右房間圧較差 < 60 mmHg かつ 右室流出路駆出血流加速時間 < 60ms ↩︎

コメント

タイトルとURLをコピーしました