心不全で入院した患者の全死亡率は約20%。退院できても、27-29%が1年以内に再入院し、入院者の4年生存率は49%とされており、心不全は予後不良の疾患です。その定義とステージ、治療薬について、日本循環器学会・日本心不全学会合同ガイドライン (2025年改訂版)をもとに整理します。
心不全の定義
- ガイドラインの定義:心臓の構造・機能的な異常により、うっ血や心内圧上昇、および/あるいは心拍出量低下や組織低灌流をきたし、呼吸困難、浮腫、倦怠感などの症状や運動耐容能低下を呈する症候群
- Universal definition:構造的あるいは機能的な心臓の異常を原因とする症状や徴候を呈し、心原性のナトリウム利尿ペプチド高値あるいは肺または全身性のうっ血の客観的証拠が、現在または過去に認められる臨床症候群
上記、ガイドラインより直接引用。

心不全のステージ
Stage A 心不全リスク
心不全の危険因子はあるものの、症状や構造的・機能的異常はなく、心筋障害のバイオマーカーは上がっていない状態です。高血圧、動脈硬化性疾患、糖尿病、CKD、メタボリックシンドローム、肥満、心毒性物質暴露、心筋症の遺伝子変異、心筋症の家族歴、など。
Stage B 前心不全
心不全の症状はないものの、心臓の構造・機能に何らかの異常がある場合です。具体的には、以下の1つ以上がある場合を指します。具体的な数値はタブボックスを参照してください。
- 構造的心疾患(EF↓、ストレイン値↓、心室肥大、心房・心室拡大、壁運動異常、弁膜症)
- 心内圧上昇の所見がある、または推定される場合
- 心不全の危険因子があり、BNPやNT-proBNPが高値であったり、心筋トロポニンが持続高値であったりする場合
- 形態
- 左室収縮能
- 左室拡張能
- バイオマーカー
- 左房容積係数 LAVI > 34 mL/m2
- 左室心筋重量係数 LVMI > (男)115 g/m2, (女) 95 g/m2
- 相対的壁厚 RWT > 0.42
- 左室壁厚 ≧ 12 mm
- 左室駆出率 < 50%
- Global longitudinal strain < 16%
- E/e’ > 14
- 中隔 e’ < 7 cm/s
- 側壁 e’ < 10 cm/s
- 三尖弁逆流速度 > 2.8 m/s
- 推定収縮期肺動脈圧 > 35 mmHg
- BNP ≧ 35 pg/mL
- NT-proBNP ≧ 125 pg/mL
※AF、高齢者、CKDでは閾値を上げる
Stage C (症候性心不全)
Stage C からは、いわゆる心不全の定義を満たすステージになります。心臓の構造・機能の異常による症状徴候があり、BNPやNT-proBNP高値であるか、客観的な全身のうっ血の証拠がある(またはあった)状態です。新規発症心不全、心不全症状の改善、心不全症状の持続、心不全増悪の4つに大別されます。
Stage D (治療抵抗性心不全)
有効性が確立している治療をすべて検討したうえで、NYHA III度から改善しないものをいいます。
LVEFによる分類
| 分類 | LVEF |
|---|---|
| HFrEF (reduced) | ≦40% |
| HFmrEF (mildly-reduced) | 41-49% |
| HFpEF (preserved) | ≧50% |
心不全の薬剤選択まとめ

HFrEFの治療 (Stage C 以上の場合)
俗に fantastic four と呼ばれる薬剤 (ARNI, β遮断薬, MRA, SGLT2阻害薬) を基本とする下記4種類の薬剤を、可及的早期に開始し、目標量まで増やすのが原則です。
ACE阻害薬・ARB
ACE阻害薬
HFrEF患者の生命予後、心血管イベントに対する効果が証明されており、禁忌がない限り全てのHFrEF患者に適応のある薬です。高用量のほうが心不全入院イベントの抑制効果が高いため、下級的に増量します。咳嗽、血圧、Cre、Kのモニターが必要です。
| 一般名 | 商品名 | 開始量 | 維持量 | 用法 |
|---|---|---|---|---|
| エナラプリル | レニベース | 2.5 mg/日 | 5-10 mg/日 | 1日1回 |
| リシノプリル | ロンゲス | 5 mg/日 | 5-10 mg/日 | 1日1回 |
ARB
心血管イベント抑制効果はACE阻害薬と同等で、ACE阻害薬を忍容できない場合にはARBへの切り替えも考慮します。ACE阻害薬とARBを併用したとしても、効果が足し算になるというデータはありません。
| 一般名 | 商品名 | 開始量 | 維持量 | 用法 |
|---|---|---|---|---|
| カンデサルタン | ブロプレス | 4 mg/日 重症例・腎障害では 2 mg/日 | 4-8 mg/日 最大 12 mg/日 | 1日1回 |
ARNI
ARBであるバルサルタンとネブライシン阻害薬のサクビトリルを併せた薬剤です。ACE阻害薬であるエナラプリルよりも、生命予後改善の効果が強いことがPARADIGM-HF試験で示されています。他方、日本人患者を対象とした第III相試験では主要評価項目の有意差はありませんでした。
上記ほかのエビデンスから、ガイドライン上はLVEF≦40%でNYHA II-IIIの再入院予防の第一選択ですが、日本の保険適応上はACE阻害薬 or ARBから切り替えて使用する必要があります。
| 一般名 | 商品名 | 開始量 | 維持量 | 用法 |
|---|---|---|---|---|
| サクビトリル・バルサルタン | エンレスト | 100 mg/日 | 100 or 200 or 400 mg/日 | 1日2回 |
β遮断薬
逆リモデリング、死亡抑制、入院等の抑制の効果が1990年代から一貫して示されており、禁忌がない限り全例で導入することが推奨されています。SGLT2阻害薬とは違ってクラスエフェクトではないとされており、カルベジロールとビソプロロールが選択肢です。
代償化・体液量適正化してから開始する必要があります。カルベジロールを用いた試験で、用量ではなく心拍数が死亡率減少と関連することが示されており、用量調節時にはHR<60/分 (心房細動例を除く) を目安とします。ACE阻害薬とどちらを優先して先に開始すべきかに関して、CIBIS-III試験では有意差はありませんでした。
腎機能障害、糖尿病、COPDを合併した症例でも生命予後改善に有用であることが示されています。ビソプロロールのほうがβ1選択性が高いので、COPD合併例には有利です。
| 一般名 | 商品名 | 開始量 | 維持量 | 用法 |
|---|---|---|---|---|
| カルベジロール | アーチスト | 2.5 mg/日 重症例では 1.25 mg/日 | 5-20 mg/日 | 1日2回 |
| ビソプロロール | メインテート | 0.625 mg/日 重症例では 0.3125 mg/日 | 1.25-5 mg/日 | 1日1回 |
MRA
軽症から重症まであらゆる重症度の心不全において、心不全死・突然死を抑制する効果が示されています。eGFR < 30 mL/min/1.73m2 や K≧5.0 mEq/L では慎重になる必要がありますが、K 5.5 mEq/L までは有効であると報告されています。
SGLT2阻害薬
糖尿病の有無によらず、HFrEFへの有効性が示されています。BMI 20 以上の群については、BMIによって治療効果の差はありません。
| 一般名 | 商品名 | 開始量 | 維持量 | 用法 |
|---|---|---|---|---|
| ダパグリフロジン | フォシーガ | 10 mg/日 | 10 mg/日 | 1日1回 |
| エンパグリフロジン | ジャディアンス | 10 mg/日 | 10 mg/日 | 1日1回 |
HFpEFの治療
SGLT2阻害薬には強いエビデンスがあります。また、MRAのうち非ステロイド型のフィネレノン(ケレンディア)には心血管死・心不全増悪抑制のエビデンスがあり、IIaの推奨です。ARNIやその代替としての
エビデンスが示されているのはSGLT2阻害薬のみ。EF 55-60%程度であれば、ARNI・ARB、MRAを考慮してもよい、とガイドラインには記載されています。利尿薬に生命予後改善のエビデンスはありませんが、ほかの心不全治療とともに行うことで、増悪防止につながるというデータがあるようです。
SGLT2阻害薬
心不全入院の減少や心血管死リスク低減(報告による)のエビデンスがあり、禁忌のないかぎり、HFpEF患者全例に投与が推奨されます。
ACE阻害薬・ARB
LVEFが正常範囲以下のHFpEF(EF≦57%)では、ARNIが心血管死・心不全入院を抑制する、との研究があります。このため、日本のガイドラインはLVEFが正常範囲以下のHFpEFに対するARNIを検討可とし、その外挿でARBを選択することを許容しています。
MRA
ステロイド型MRAであるスピロノラクトンについては、副次評価項目ではあるものの、心不全入院を有意に減少させたとの報告があります。非ステロイド型MRAであるフィネレノン (ケレンディア) は、LVEF≧40%の症候性心不全で、主要評価項目の心血管死・心不全増悪を有意に減少させたと報告されています。以上より、日本のガイドラインは、フィネレノン(ケレンディア)をIIaで推奨する一方、スピロノラクトンやエプレレノンはIIbとなっています。
β遮断薬
HFpEFにおいてβ遮断薬が有益か否かは、研究によって結果が異なり、結論が出ていません。HFpEFでは、chronotropic incompetence といって、運動に適応した心拍数の調整が不全となる例が40~80%を占めるとされており、この場合にはベータ遮断薬の中止によって最大酸素摂取量を改善させられるとも言われています。
日本のガイドラインでは、AFのレートコントロールや虚血性心疾患の管理などの併存症の治療を別として、HFpEFに一律には推奨しないとしています。
HFmrEFの治療
HFmrEFをターゲットとしたRCTは存在せず、既存のエビデンスは他の試験のサブ解析によるものです。
SGLT2阻害薬
心不全入院・心血管死のリスク低減のデータがあり、症候性HFmrEFでは、禁忌のない限り全患者に推奨されます。
ACE阻害薬・ARB
前述の通り、ARNIはEF≦57%のEFが正常未満のグループで心血管死・心不全入院のリスクを抑えるというデータがあります。ARBであるバルサルタンに比してARNIのほうがリスク軽減効果が強いことが指摘されています。EFが低いほどARNIの効果が高いことが示されています。
ACE阻害薬に関する研究は報告されていません。ARBでは心血管死・心不全入院のリスク低減のデータがあります。
MRA
フィネレノン (ケレンディア) は、HFmrEFを含め、EF≧40%の症候性心不全の心血管死・心不全増悪イベントを抑制することが示されています。ステロイド型であるスピロノラクトンでは、技術的な問題で有意な差は出なかったようですが、LVEFが低いほど有益である可能性が示唆されています。
β遮断薬
LVEF 40-49%において、全死亡・心血管死のリスク減少に資することが示されています。
参考文献
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン
- 杉崎陽一郎監修『循環器のトビラ』メディカル・サイエンス・インターナショナル 2023年発行 version 3


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