血液培養の採取法と解釈について、原則 UpToDate をもとに整理する。
採血手技
採血部位
- 静脈ラインからの採血は避ける。ライン刺入時の採血であってもコンタミネーション率が上昇する。通常の静脈採取に比べてオッズ比 2.69 (95% CI 2.03-3.57)
- 上肢の静脈が望ましく、大腿静脈や皮膚疾患のある部位は避ける
- 動脈でも静脈でもよい
- 点滴が入っている肢から採血する場合は、点滴部位の末梢から採血する1
- 同一の肢から再度採血する場合は、一度駆血帯を外して血流を回復してから改めて駆血する2
手技と消毒
- 血液培養のトレーニングを受けた採血技師 (phlebotomist) が施行することが望ましい
- 消毒の前に駆血帯を締め、静脈を触知できるようにしておく
- 消毒液:
- UpToDate: 2%アルコール含有クロルヘキシジンか、アルコールヨード含有のものを用いる。アルコール非含有のヨードチンキやポピドンヨードは用いない。
- 青木: 1%を超えるクロルヘキシジンアルコール、70%イソプロピルアルコール、10%イソジン綿球で中心から外側に円を描いて。持続性はイソジン、即効性はアルコールが優れ、クロルヘキシジンは両者の長所を兼ね備えるとされる。採血部位の汚染がひどければ酒精綿で機械的に汚れを落としてから消毒液を使用する。消毒後、最低2分間は待つ
- 血培ボトルの栓は70%イソプロピルアルコールで消毒する
- 消毒液 (皮膚もボトルも) は30-60秒乾燥させる
- 消毒後も血管を触知する必要がある場合は、滅菌グローブを装着する
- 翼状針で採血した場合、管内に空気があるため、好気ボトルから分注する
- 直針で採血した場合、嫌気ボトルから分注する
- 各ボトル間で針を変える必要はない
- 血液量が不十分なら好気ボトルのみ分注・提出する
採取のタイミング
発熱、悪寒戦慄はもちろん、菌血症を否定できないあらゆる状況で採取する。
- 原因不明の意識障害・見当識障害・せん妄
- 循環障害(血圧低下)・呼吸数の増加
- 代謝性アシドーシス
- 体温、白血球数、CRPなどの上昇。そして下降も!(血圧や意識の低下といった患者状態の悪化とともに体温やCRPの「正常化・低下」が出現したら、これは発熱よりも危険。病院内で最も多い低体温の原因は敗血症!)
- 麻痺など脳血管障害の出現
理論上は発熱の直前に採取するのがもっともよいが、予期不可能である。発熱の経過(体温)と血培陽性率を比較した研究では、有意な関連は指摘されなかった。
日本の教科書でも、UpToDate 本文の記載でも、原則として異なる箇所からの2セット以上の採取 (more than one venipuncture site) を推奨している。
スウェーデンの研究グループは単回穿刺で2セット分の採血を行うことを推奨する論文を発表している。いわく、穿刺1回で2セット4本分の採血を行い分注することで、4本すべてが培養される割合が上がり (≒2セット目の採血を断念して提出ボトル数が不足する事例が減り)、十分な検体量が得られるようになり、陽性率が上がる3。また、前向き研究でも、単回穿刺時の陽性率が複数回穿刺時に比して非劣性であり、複数回穿刺のほうがコンタミネーションが多かったという4。
以下私見。この研究では、全例で2穿刺6本の血液培養ボトルを採取し (1穿刺から4本、もう1穿刺から2本の合計6本) 単回穿刺4本を採用した場合と各穿刺から2本ずつの合計4本を採用した場合を比較している。コンタミネーションとして典型的な菌が≦3本から検出され、尿など他部位の培養から関連する菌が検出されなかった場合に、コンタミネーションと判断している。この判定条件からして、つまり、4本採取する方の穿刺で検体を汚染すれば、4本陽性でコンタミネーション扱いにならないのである。通常、2セットから検出されればコンタミではないと考えるが、それはあくまで別個の穿刺で2セット採取していることが前提である。この研究のコンタミネーション判定の基準には無理がある。
また、消毒と穿刺の手技を2回行えば、試行回数が増えて通算のコンタミネーション率が上がるのは確率論的には当然であろう。しかし、単回穿刺であっても一定頻度でコンタミネーションは起こるのだから、実際にはコンタミネーションが起こった場合にそれを正しく解釈できるかどうかが問題となる。単回穿刺ではその判断が極めて難しい。
単回穿刺のほうが十分な検体量が得られる可能性が高く検出率が上がるという論には一定の理があるが、単回穿刺2セット採取では非典型的な菌が生えた場合にコンタミネーションか否かを判断することが困難となる問題がある。どうしても検出率を高めたい状況であれば、IEを疑う場合のように、異なる3部位から3セットを採取すればよい。
施設によっては、人手の問題もあり、採血困難例で2回穿刺し採血するのは現実的でない場合もあるかもしれない。しかし、人手や設備の充実した施設であえて単回穿刺での2セット採取を行う根拠は現時点ではない。
結果の解釈
常に「真の菌血症」とする菌
- Staphylococcus aureus
- Staphylococcus lugdunensis
- Streptococcus pneumoniae
- Group A Streptococcus
- Group B Streptococcus5
- Enterobacteriaceae (いわゆる腸内細菌GNR。大腸菌など)
- Haemophilus influenzae
- Pseudomonas aeruginosa
- Bacteroidaceae (バクテロイデス)
- Corynebacterium jeikeium
- Corynebacterium diphtheria
- Bacillus anthraces
- Neisseria meningitidis6
- Listeria7
- Candida species
臨床状況によっては「真の菌血症」とする菌
- Enterococci (腸球菌)
- Viridans streptococci
- Clostridium
通常はコンタミネーションとみなす菌
- Coagulase-negative staphylococci (CNS)
※Staphylococcus lugdunensis は真の菌血症とする - Corynebacterium spp
※C. jeikeium, C. diphtheriae は真の菌血症とする - Cutibacterium (Propionibacterium) acnes
- Bacillus spp
※B. anthracis は真の菌血症とする - Micrococcus spp
血液培養のフォローアップが必要な場合
以下の場合には、抗菌薬開始後1-2日以内に血液培養をフォローする必要がある。
- S. aureus 菌血症
- S. lugdunensis 菌血症
- 血管内感染(疑い)の場合
- 感染性心内膜炎 (IE)
- ICD/ペースメーカー感染
- 血管内カテーテル感染
- 血管グラフト感染
- 化膿性血栓性静脈炎 (Septic thrombophlebitis)
- 血管内感染のリスクのある患者における菌血症
- ICD/ペースメーカー
- 血管グラフト
- 人工弁
- IEの既往
- 弁膜症のある心臓移植レシピエント
- 未治療の先天性心疾患
- シャントや逆流が残存する治療後の先天性心疾患
- 修復後6ヶ月以内の治療後の先天性心疾患
- 抗菌薬開始後72時間を経ても発熱、白血球増多、そのほか感染の兆候が持続する場合
- 抗菌薬透過性の低い部位の感染の可能性:膿瘍、関節腔
- 腹腔内や中枢神経が感染源と推定される場合
- 通常の抗菌薬に耐性であると考えられる病原微生物の存在
- 菌血症の感染源が不明である場合
コンタミネーション
レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 では以下の場合にコンタミネーションを疑うとしている。
- 上記のコンタミネーションとみなす菌が (1セットで) 検出される場合
- 1セットのみが陽性になる場合
- 複数種類の菌が検出される場合(誤嚥性肺炎、腸管穿孔など複数菌の感染が予期される場合は別)
- 未熟なスタッフによる採血である場合
- 感染巣と矛盾する菌が検出されている場合
- 敗血症の臨床像を呈さない場合
一般にはコンタミネーション率の目標は2~3%程度とされる8。
適切な採取手技により、コンタミネーション率は1%未満に抑えることができる。CLSI (Clinical and Laboratory Standards Institute) は血培コンタミネーション率の目標を<1%とすることを推奨しており、>1%の場合は検体採取手技や手順の見直しが必要である。
参考文献
- Detection of bacteremia: Blood cultures and other diagnostic tests | UpToDate
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版
脚注
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 p26 ↩︎
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 p26 ↩︎
- Ekwall-Larson, A. et al. (2022). Single-Site Sampling versus Multisite Sampling for Blood Cultures: a Retrospective Clinical Study. J Clin Microbiol. ↩︎
- Yu, D. et al. (2020). Single-Sampling Strategy vs. Multi-Sampling Strategy for Blood Cultures in Sepsis: A Prospective Non-inferiority Study. Front Microbiol. ↩︎
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 ↩︎
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 p24 ↩︎
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 p24 ↩︎
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版 p24 ↩︎
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