レプトスピラ

感染症内科

Leptospira による感染症。げっ歯類などを保有動物とする人獣共通感染症である。黄疸、出血、腎不全を伴う重症例はワイル病、軽症例は秋やみなどとも呼ばれる。4塁感染症であり、全数報告の対象である。

以下、特記なき限りUpToDateの記載をもとに整理する。

Leptospira の微生物学的な特徴

運動能の高い好気性スピロヘータである。通常の検鏡では染色されづらく、観察には暗視野検鏡 (dark field microscopy) や鍍銀染色、蛍光顕微鏡を用いる必要がある。菌体尾部がクエスチョンマークのような鈎状をしていることが特徴である。

疫学

世界で最も広範にみられる人獣共通感染症と考えられているが、under-reported であると推定され、患者数は正確には明らかになっていない。世界で年間100万人以上が発症し、およそ6万人が死亡しているとの報告もある。日本でも1970年代前半までは≧50人/年の死亡例の報告があった1。現在では著減しているが、沖縄県を主として散発しており、1999年には八重山地域での集団発生も発生している。

哺乳類を保有宿主 (reservoir) とし、その尿細管に生息し、尿を介して排出される。160種以上の哺乳類が病原性 Leptospira の自然キャリアとして報告されているが、特にげっ歯類が伝播に重要な役割を果たすと考えられている。家畜や愛玩動物(ウシ、ブタ、イヌ、ウマ、ヒツジ、ヤギ)にも感染しうる2。猫の感染は稀である。

ヒトへの感染経路は、尿汚染のある土や水との接触、食品や水の摂取、感染動物の尿や体液 (reproductive fluids) への暴露が主である3。一般には皮膚の創傷や粘膜・結膜からの侵入とされるが、健常皮膚を介して感染しうるか否かは議論がある。ヒト-ヒト間の感染は極めて稀だが、性交渉や授乳による例の報告がある。豪雨や洪水の後、トライアスロンなどに際して集団で発生する場合もある。

症状

黄疸のないレプトスピローシス (Anicteric leptospirosis)

急性期 (2-9日)

曝露後5-14日ほどで生じる発熱を伴う急性の菌血症である。突然発症の発熱、悪寒、筋肉痛 (特にふくらはぎと腰部)、頭痛が75-100%の症例でみられる。嘔気・嘔吐、下痢が半数程度の症例に、乾性咳嗽が25-35%の症例に出現する。比較的稀だが、関節痛、骨痛、咽頭痛、腹痛、小児における非結石性胆嚢炎や膵炎、急速進行性の肺出血も報告がある。

特徴的な身体所見として、膿を伴わない結膜充血が挙げられる。レプトスピローシスの大多数に生じるとの報告があり、かつ他の感染症にはあまりみられない。筋把持痛、脾腫、リンパ節腫大、咽頭炎、肝腫大、筋強剛、呼吸音異常、皮疹の報告もある。

血液検査上は好中球↑(白血球総数は↓〜↑)、ESR↑、軽度のAST・ALT↑、CK↑など。尿検査では蛋白尿、膿尿、顆粒円柱、顕微鏡的血尿など。

免疫期

急性期の後 (急性期が欠落する場合も)、一部の症例では1週間〜30日程度の immune phase が生じる。再度の熱発、頭痛、筋肉痛、ときに嘔気・嘔吐、腹痛を呈する。

無菌性髄膜炎が特徴である。およそ半数の症例に頭痛・頚部痛や頸部の stiffness がみられ、髄膜炎症状は1-2日で軽快することが多い。髄液検査を行った場合、細胞数↑、軽度の蛋白↑、糖→の所見が、髄膜炎症状がない場合を含めて immune phase の症例の50-85%にみられる。ぶどう膜炎を生じることがあり、ときに反復する。

黄疸を伴うレプトスピローシス (Icteric leptospirosis; Weil 病)

有症状のレプトスピローシス症例の5-10%が Icteric leptospirosis となり、この場合の致死率は5-15%に達する。発熱、黄疸、腎不全を生じ、いわゆるワイル病となることが多い。

Icteric leptospirosis の症状・所見。人体模式図は chat GPT による。臓器のアイコンは https://icooon-mono.com/ より

診断

結膜充血やふくらはぎの筋痛、無菌性髄膜炎、ぶどう膜炎、説明困難な黄疸、発熱を伴う急性腎障害、肺出血などの症状を手がかりとし、現地の疫学、曝露歴やリスクの高い行動などを加味して鑑別に挙げる。

病原診断

本項は国立健康危機管理研究機構の記載による。

病原体の分離

抗菌薬投与前、発熱期の全血をレプトスピラ培養培地(コルトフ培地、EMJH培地など)に接種し培養。

血清診断

顕微鏡下凝集試験法 MAT により、ペア血清で≧4倍の抗体価上昇があれば陽性。230以上の血清型が存在するため、ELISA法などのスクリーニング法も用いられる。

PCR

全血から 16S rRNA や flaB 遺伝子配列をPCRで検出する系が存在する。

治療

各臓器障害に対しては、一般の敗血症と同様に急性期治療を行う。

抗菌薬治療

  • UpToDate
    • 軽症例:
      • ドキシサイクリン 7日間
      • アジスロマイシン 3日間
    • 重症例(治療期間は7日間):
      • ペニシリン
      • ドキシサイクリン
      • セフトリアキソン
      • セフォタキシム

梅毒同様、Jarisch-Herxheimer 反応が生じることがある。

参考文献

脚注

  1. https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ra/leptospirosis/010/leptospirosis.html ↩︎
  2. イヌの死亡率は10%程度である。ウシ・ブタ・ヒツジ・ヤギでは通常は自然流産をきたす。 ↩︎
  3. まれに動物咬傷による場合もある。 ↩︎

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