感染関連糸球体腎炎

内科

感染症に関連する糸球体腎炎としては、古典的には小児の溶連菌感染後に発症する溶連菌感染後急性糸球体腎炎 (acute post-streptococcal glomerulonephritis, APSGN) が有名です。近年、高齢者で溶連菌以外の感染を契機として急性腎炎を生じる例が増加したこと、その場合には腎炎発症時にも感染症が進行中であることが多いことから、感染関連糸球体腎炎 (infection-related glomerulonephritis, IRGN) という呼称が用いられるようになりました。

用語整理:急性糸球体腎炎 acute glomerulonephritis (AGN)

先行感染後、比較的急な経過で発症し、血尿蛋白尿とともに、浮腫乏尿高血圧糸球体濾過量の減少を認める疾患。(WHO臨床症候分類、今日の臨床サポート

用語整理:nephrotic vs nephritic

日本の医学用語ではあまり気にして区別しないところですが、糸球体疾患の表現型は nephrotic と nephritic の2通りに分けられます。本稿で扱ういわゆる「急性糸球体腎炎」は、糸球体の炎症によって生じる、”nephritic” な疾患の代表です。日本語の「ネフローゼ症候群」は “nephrotic” で、プレゼンテーションがかなり異なる疾患なので、注意が必要です。

Nephrotic

日本語で言うところの「ネフローゼ症候群」を指して、nephrotic syndrome といいます。高度な尿蛋白と低アルブミン血症によって定義される概念です。浮腫や脂質高値をしばしば伴います。尿沈渣の異常はあまり目立ちませんが、尿中の脂肪が増えるため、脂肪滴や卵円形脂肪体 oval fat body がみられることもあります。

Nephritic

語感がネフローゼと似ているため混同しがちですが、糸球体の炎症による疾患で、むしろ(肉眼的 or 顕微鏡的)血尿が目立ちます。本稿で扱うのはこちらです。

artery (動脈) → arteritis (動脈炎), colon (大腸) → colitis (腸炎) のように、”itis” は通常「◯◯炎」を指すことを考えると、”nephritis” が炎症主体の病態を指すのもわかりやすいでしょうか。

糸球体腎炎全般の症候

糸球体腎炎など、糸球体の炎症によって尿路感染でないのに血尿・白血球尿をきたす疾患は、”nephritic syndrome” (日本語で「ネフローゼ」と訳される “nephrotic” とは別の概念であることに注意) と称されます。高血圧、腎機能低下を伴うほか、原疾患によっては、肺胞出血や触知可能な紫斑 (palpable purpura)、血管炎を合併している場合もあります。

糸球体腎炎の原因は、大きく、i. 免疫複合体、ii. 抗GBM病、iii. ANCAや細小血管炎、の3つに分けられます。本稿で扱うIRGNは、基本的には i. の免疫複合体によるものだと考えられます。

糸球体腎炎の自然史はさまざまで、急激に増悪する急速進行性糸球体腎炎を呈するものもあります。IRGNのうち、古典的な溶連菌感染後急性糸球体腎炎 APSGN は、自然軽快を期待できる短期予後良好の疾患です。

細菌感染によるIRGNの分類

以下に分類されます

  • 溶連菌感染後急性糸球体腎炎 (APSGN)
  • シャント腎炎
  • 感染性心内膜炎による腎炎
  • IgA優位沈着性IRGN (immunoglobulin A dominant IRGN, IgA-IRGN)

溶連菌感染後急性糸球体腎炎 (APSGN)

先進国では減少している疾患です。先行感染の部位は皮膚上気道、肺炎などですが、26%程度は感染部位が明らかになりません。

高血圧・高K・心不全などによる合併症が生じない限り、短期予後は良好です。急性期は循環血漿量が増加するものの、1週間以内に利尿期に入り、4週間以内に症状は消失します。長期的には持続性蛋白尿や腎機能低下の可能性があります。

シャント腎炎

弱毒菌がシャントに長期間にわたって感染することが原因となって生じると考えられています。心房脳室シャント (VAシャント) の感染によるものが大多数です。2000年以降減少傾向にあります。

感染性心内膜炎による腎炎

感染性心内膜炎の22-78%が糸球体腎炎を発症するとの報告があります。53%が黄色ブドウ球菌、23%が連鎖球菌です。

IgA優位沈着性IRGN (IgA-IRGN)

黄色ブドウ球菌などの感染によって糸球体腎炎を生じるものをいいます。高齢者や、なかでも糖尿病・悪性腫瘍などの併存疾患がある例でリスクが高く、古典的なAPSGNと違って予後が悪く、19-41%が末期腎不全にいたります。

最多の原因菌は黄色ブドウ球菌で、うち50%程度がMRSAとの報告があります。ほかに、表皮ブドウ球菌、溶連菌、肺炎桿菌、大腸菌の報告があるようです。

鑑別:急性糸球体腎炎症候群を呈する他の疾患

  • IgA腎症
  • 膜性増殖性糸球体腎炎
  • ループス腎炎

検査

一般的な検尿・尿沈渣、腎機能に加えて、以下を検討します。

感染症検査項目
溶連菌感染症ASO、ASK。細菌培養を考慮
ブドウ球菌感染症血液培養、組織培養
感染巣不明心臓超音波、ガドリニウムシンチ、PET

感染関連以外の糸球体腎炎との鑑別を考慮すると、下記の検査も視野に入ります。

  • 補体 C3・C4
  • ANCA
  • 抗GBM抗体
  • 抗核抗体
  • 抗dsDNA抗体
  • HCV, HBV, HIV
  • free light chains, serum immunofixation
  • クリオグロブリン性血管炎の所見があれば、HCV感染

治療

抗菌薬

先行感染の病巣の感染が持続していれば、抗菌薬を投与します。溶連菌であれば、アモキシシリンが第一選択です。

安静

病初期は可能な限り安静にします。乏尿・浮腫・高血圧がある期間(1−2週間)は入院が望ましい今日の臨床サポートは記載しています。

食事療法

浮腫・腎機能障害があるときは、塩分・タンパク質・カリウムを制限します。

体液・血圧の管理

著明な浮腫があれば、ループ利尿薬を投与します。高血圧緊急症があれば、亜硝酸薬・Ca拮抗薬の静脈内投与も視野に入ります。

ステロイド、免疫抑制薬

APSGN について、ステロイドや免疫抑制剤の有用性は確立しておらず、不要とされています。IgA-IRGN におけるステロイド投与の有効性もやはり証明されておらず、感染症増悪の危険性も考慮する必要があります。MRSA関連腎炎においては、polymyxin B-immobilized fiber column による血液浄化の報告があります。

半月体形成性糸球体腎炎の場合、ネフローゼの場合にはステロイド・免疫抑制剤を投与する場合もあるようですが、少数の観察研究で有効性が示唆されている程度のようです。ただし、広範囲に半月体があり、急速進行性糸球体腎炎のような経過を示せば、ステロイドパルス療法がKDIGOガイドラインに記載されています(今日の臨床サポートより孫引き)。

ACE阻害薬、ARB

尿蛋白 ≧ 1 g/day が半年以上続く場合は、ACE阻害薬・ARB投与を考慮します。

SGLT2阻害薬

糖尿病のないCKD例に積極的に使う視診を学会が示しており、有効な可能性はあるものの、急性糸球体腎炎におけるエビデンスはありません。

参考文献

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