様々な成因(下記)により、亜区域気管支より末梢の気道が不可逆的に拡張した状態。
疫学
米国には35万〜50万人の成人患者がいる。60歳以上になると有病率が8〜10倍に増加する。デンマークの研究では、非喫煙者における慢性咳嗽の最大のリスク因子が気管支拡張であった。女性に多い。
病態生理
- 感染
- ドレナージ不良、気道閉塞、宿主免疫の低下
の2要因が影響する。
好中球や好中球エラスターゼが気道の破壊に関与している可能性がある。健常者、cystic fibrosis による気管支拡張、それ以外の気管支拡張の患者の間で、痰の性状が異なる。ビタミンD欠乏を伴う気管支拡張患者では緑膿菌保菌率が高く、増悪の頻度が高く、呼吸器症状が強いとの報告があるが、ビタミンDが免疫に影響しているのか、病状が悪く屋外で活動できないために日光暴露が少ないことの影響なのかは明らかでない。
成因
- 気道閉塞
- 気管気管支軟化症/気管気管支拡張症 (Mounier-Kuhn 症候群)
- 分泌物のクリアランス不良と感染の反復によって気管支拡張を来しうる
- 宿主免疫の低下
- 繊毛運動不全症、低ガンマグロブリン血症などのほか、移植や膠原病に対する長期の免疫抑制
- 感染の反復による気管支壁の損傷が気管支拡張の原因となる
- 嚢胞性線維症(Cystic fibrosis; CF)
- Young 症候群
- CFでない例における気管支拡張、副鼻腔炎、閉塞性無精子症
- 現在ではほぼみられないよう
- 免疫関連の疾患
- 関節リウマチ (RA)、Sjogren 病は気管支拡張を合併しうる
- 気管支拡張が明らかになるときには関節病変や乾燥が明らかとなっている場合が多い
- COPDを除く他の成因に比して死亡率が高い
- 炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)や yellow nail syndrome との関連も指摘されている
- 関節リウマチ (RA)、Sjogren 病は気管支拡張を合併しうる
- Dyskinetic cilia
- α1 アンチトリプシン欠損症
- 主たる肺病変は肺気腫
- 95%が気管支拡張の所見を伴うとの報告もある
- 感染症
- 小児期のマイコプラズマ感染、遷延する咳などとの関連が報告されている。Haemophilus influenzae 感染や細菌性気管支炎の反復がリスクになる
- 成人のウイルス・細菌による「毒性の強い」肺炎が気管支拡張に先行する場合がある。SARS-CoV-2 や Staphylococcus aureus の関与
- 結核などの毒性の強い感染症の後遺症としてリンパ節腫大や気道損傷が生じ、保菌しやすくなる可能性。NTMや Nocardia の関与も指摘される
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
- 気管支拡張薬に反応しない長期の喘息で考慮
- アスペルギルスに対する免疫の過剰反応
- 喘息
- 喘息の診断基準を満たさずとも、気管支拡張症患者はwheezeがあり気道過敏性を呈しうる
- 喘息そのものが気管支拡張症増悪の独立したリスク因子である
- 喫煙とCOPD
- 喫煙が気管支拡張症の原因となることは立証されていない
- 喫煙、COPDの存在、感染の反復により、呼吸機能が低下し現存する疾患を増悪させる可能性はある
臨床所見
- 古典的な臨床所見は、
- 咳嗽
- 粘液膿性 (mucopurulent) で粘り強い喀痰
- (急性) 増悪を繰り返す
- 非特異的なものとしては、
- 呼吸困難
- wheezing
- 胸膜性の胸痛
- 高頻度で血痰・喀血を生じる(27%)
- サイトカインによって増生等した気管支動脈が破綻するため
- 大動脈の直接の分枝であるため、ときに致死的な多量出血をきたす
- 疲労がFEV1の低下と関連する倦怠感が43%にみられる
- 嗅覚の減退が生じる事が多い
- 骨密度低下の報告があり、特に45歳未満の弱年齢で顕著である
CT所見
- 気道内腔径 ≧ 隣接血管 x 1.5 は気管支拡張を示唆する
- signet ring sign: 血管と気管支は通常ほぼ同径で隣接して走行するが、気管支が拡張することで印環様の外観となること
- 末梢に向かうにつれ先細りするのが通常であるが、本症ではこれを欠く。気管支喘息における気管支の拡張の所見との鑑別に有用
- 肋骨側から 1 cm の領域に気道が見えるのは拡張を示唆する所見である
- 拡張した末梢気管支において、粘液充満像 mucoid impaction を認める
- tree in bud pattern
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