前立腺肥大症

前立腺容積 > 20 mL であることを前立腺肥大症と定義する。男性の下部尿路症状の原因として最も頻度が高く、40代でも25%(40代で4人に一人)、70代では80%にみられる。

前立腺肥大の評価

直腸診

> 50 mL の前立腺肥大を検出できるが、除外には適さない。前立腺肥大では前立腺は弾性硬となり、中心溝が消失し、前立腺上縁が触知できなくなる。

左右差がある、硬結を触れる場合には前立腺癌を考慮する。

PSA

前立腺の容積とPSA値は log-linear の関係でよく相関することが判明している。前立腺容積 > 40 mL を検出するための基準として、Chung, B. H.らは以下を提案している。

  • 60代 >1.3 ng/mL
  • 70代 >1.7 ng/mL
  • 80代 >2.0 ng/mL

≧ 4 ng/mL では前立腺癌を考慮する。ただし、PSA低値を根拠に前立腺癌を否定することはできない。

画像

  • 縦 (cm) x 横 (cm) x 高さ cm x 0.5 で容積を算出する
  • 排尿筋筋層の肥厚、膀胱壁の肥厚を参考にする
  • 前立腺の 10 mm を超える膀胱内への突出は、排尿障害の存在について、感度 67.8%、特異度 74.8% である

治療

IPSS≧8 (中等症以上) で患者が困っていれば治療適応。多尿があれば飲水量、尿崩症、利尿薬などの指導・調整をまず行う。

薬物療法

α遮断薬

3-5日以内に効果が発現する。対症療法で、前立腺肥大そのものは改善しない。

  • 第一世代:テラゾシン(バソメット)、ドキサゾシン(カルデナリン)、ウラピジル(エブランチル)、プラゾシン(ミニプレス)
    • 選択性が低く低血圧のリスクが高い(α1B作用→血管平滑筋)ため、緩徐な増量を要する
  • 第二世代:タムスロシン(ハロナール)、ナフトピジル(フリバス)、シロドシン(ユリーフ)
    • α1A、α1D選択性が高く、早期に増量できる
    • 射精障害を生じやすい

IFIS (intraoperative floppy iris syndrome) という白内障術中の縮瞳等を生じる現象の原因となりうるので、服用歴がある場合を含め、眼科医に報告が必要。

5α還元酵素阻害薬 (5-ARI)

フィナステリド(プロペシア)、デュタステリド(アボルブ)。ジヒドロテストステロン産生阻害により前立腺縮小、症状緩和を図る。効果発現には4-6ヶ月を要するが、α遮断薬と併用することで単剤治療以上の症状緩和を期待できる。低分化型前立腺癌の予防効果があることが報告されている。

PSA f/u に際しては、5-ARI投与開始後6ヶ月かけてPSA値が50%程度低下することに留意する(5-ARI内服にもかかわらずPSAが上昇してきたら泌尿器科コンサルト)。

PDE5阻害薬

タダラフィル(ザルティア)。勃起不全薬シアリスと同一成分。α遮断薬と併用すると効果が高く、即効性もある。

参考:排尿障害の評価

自覚症状の評価尺度としては、IPSS (International Prostate Symptom Score) が有名であろう。排尿日誌も有用である。

膀胱容量を他覚的に評価する方法は以下の通り:

聴性打診

聴診器を下腹部の恥骨上縁に接する位置に当て、腹部正中を臍部から打診していき、音が変わる点を探す。音が変化した点が膀胱底部にあたり、その点が恥骨上縁から7cm以上頭側(聴診器から2cm程度頭側)にあれば、残尿量 > 250 mL と推定される。音の変化がなければ、残尿量 ≦ 100 mL と推定される。

JAMA Internal Medicine の1985年の記事に基づく。成人男性170人のデータに基づく推定方法。この方法でわかるほど膀胱が張っていれば触っただけでもわかるようにも思われ、現代の日本ではエコーを使うのが現実的かもしれない(私見)。

腹部超音波

膀胱を描出し、Width x Height x Depth x 0.5 で算出。導尿による実測値とは20%前後の誤差。https://doi.org/10.1016/j.urology.2004.06.054

参考文献

ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版

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