- 爪の黄変・肥厚、リンパ浮腫、呼吸器病変を3徴とする疾患
- 診断には上記のうち2つがあればよく、3徴すべてが揃うのは27-60%程度である
- 正確な疫学データには乏しいが、
- 世界中で報告があり、
- もっぱら50歳以上の成人にみられ、
- 性差はない
- 家族性の報告もごくまれにある
黄色爪
主たる徴候であるが、リンパ浮腫や肺病変とは時相を異にする場合がある。通常爪は 0.46 mm/週で伸長するところ、本症の爪は 0.23 mm/週でしか伸びない。他方、通常の爪が厚さ 0.57 mm 程度であるところ、本症では 0.97 mm 程度である。
呼吸器病変
Yellow nail syndrome 患者の56-71%に見られる。様々な症状を呈し、
- 慢性咳嗽 56%
- 胸水 14-46%
- 68.3%が両側性
- 75%が漿液性、22%が milky、3.5%が膿性
- 95%が滲出性で平均蛋白 4.2 g/dL、5%が漏出性
- 喀痰の細菌叢については、特発性気管支拡張症と本症の気管支拡張症とで差はない
- 反復する肺炎 22%
- 両側肺尖部の線維化、patchy alveolar infiltrates、cystic lesions
- 気管支拡張 44%
- 特発性に比べて狭く、軽症で、気管支壁肥厚も弱い
呼吸機能検査は通常正常で、ときに胸水を反映して拘束性障害を呈する。胸膜生検では正常か chronic fibrosing pleuritis の所見があるのみで特に情報は得られない。
リンパ浮腫
29-80%にみられ、1/3では初発症状である。一般的なリンパ浮腫と同様。両側下肢の足首より下にみられるのが典型的。
副鼻腔炎
急性または慢性の鼻副鼻腔炎が14-83%にみられる。上顎洞炎が最も多い。爪の変化と同時だったり、数年前後したりすることもある。鼻炎、鼻閉感、後鼻漏など。鼻を気道の狭小化、粘膜の炎症を認める。
関連疾患
- 腸リンパ管拡張症
- 稀に関連。Waldmann’s disease。
- 悪性腫瘍
- 本症と近接して悪性腫瘍と診断されるのは41人中4人、または21人中1人
- 本症と悪性腫瘍の診断までの間隔は数日から数年まで様々
- 癌腫は様々で、
- 肺癌 bronchial carcinoma
- 乳腺 breast
- 非ホジキンリンパ腫 non-Hodgkin lymphoma
- 胆嚢 gallbladder
- 喉頭 larynx
- 腎細胞癌 renal cell carcinoma
- 子宮内膜 endometrium
- メラノーマ melanoma
- 造血幹細胞移植後の多発性骨髄腫 multiple myeloma after hematopoietic stem cell transplantation
- 菌状息肉症 precancerous mycosis fungoides
- 自己免疫疾患、免疫不全
- common variable immunodeficiency
- combined T- and B-cell deficiency
- ギラン・バレー症候群
- ネフローゼ症候群
- 橋本病
- 重篤な甲状腺機能低下症・亢進症
- xanthogranulomatous pyelonephritis
- 関節リウマチ
鑑別疾患
薬剤性
リウマチなどに用いられるD-ペニシラミンやブシラミン、シスチン尿症に用いられるチオプロニン、金製剤は、薬剤性の yellow nail syndrome をきたすことがある。非薬剤性の例に比すれば、リンパ浮腫や胸水の合併は稀である。
感染
カンジダやアスペルギルスなどの真菌症、爪白癬。緑膿菌(色素産生による)。
治療
定まった治療法はない。自然経過で数ヶ月以内に消失することもあれば、原疾患の治療により解消することもある。対症療法が主で、抗菌薬投与、ビタミンE、亜鉛、ステロイド概要、ビタミンD3などを用いることがある。
黄色爪
整容的な観点から治療対象となることがある。
- 経口ビタミンE 1000-1200 IU/day
- トリアゾール系抗真菌薬
- イトラコナゾール 400 mg/day 6ヶ月にわたって、1ヶ月あたり1週間(日本の爪白癬のパルス療法としての保険適応は3サイクル=3ヶ月)
- 8症例のうち2例が治癒、2例が軽減
- 経口フルコナゾール 300 mg/週
- イトラコナゾール 400 mg/day 6ヶ月にわたって、1ヶ月あたり1週間(日本の爪白癬のパルス療法としての保険適応は3サイクル=3ヶ月)
- 経口硫酸亜鉛 300 mg/day
- クラリスロマイシン 400 mg/day 6年間
呼吸器病変
対症療法が主で、気管支拡張に伴う急性のエピソードに対しては適宜抗菌薬を投与する。
- 場合によっては抗菌薬予防投与:
- アジスロマイシン 250 mg x3/week
- 理学療法
- 体位ドレナージ
- 呼吸器の理学療法
- flutter valve
- ワクチン
- インフルエンザ
- 肺炎球菌
- オクトレオチド(ソマトスタチンアナログ)
リンパ浮腫
complete decongestive therapy
参考文献
- Vignes, S. et al. (2017). Yellow nail syndrome: a review. Orphaned Journal of Rare Diseases.
- Suzuki, M. et al. (2011). A Case of Yellow Nail Syndrome with Dramatically Improved Nail Discoloration by Oral Clarithromycin. Case Reports in Dermatology.
- 皿谷健 (2016). シリーズ:一目瞭然!目で診る症例 日本内科学会雑誌105巻6号
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