浮腫の鑑別

ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版UpToDate をもとに整理。

浮腫の概論

分類

  • pitting edema:5秒以上圧痕が残る浮腫。そのうち、40秒以内に圧痕が消失するものを fast edema、戻らないものを slow edema と呼ぶ。
  • non-pitting edema:上記以外。リンパ流の閉塞か甲状腺機能低下による事が多い

pitting edema において、原則として pit recovery time は血清アルブミン値に依存する。血清アルブミン値が低いときは間質の膠質浸透圧も低く、血漿成分が流出しやすいため、圧痕もただちにもとに戻る。したがって、低アルブミンのときは fast edema を呈しやすい。他方、心不全など静脈圧の高い病態では、圧痕が消えづらい(想像だが、動脈からの血漿成分が組織に還流しづらいため?)。

浮腫の程度の評価

1+から4+のグレードを用いることが多いが、グレーディングに明確なコンセンサスはない(UpToDate)。

急性の片側性下腿浮腫

深部静脈血栓症の除外

急性発症の片側性下腿浮腫では特に迅速な対応を要する疾患。浮腫のほか、ふくらはぎの圧痛、静脈に沿った疼痛や硬結、片側性の熱感や発赤を呈しうる。病側下腿の周の増大が最も有用な所見である。Homans 徴候は有名だが、信頼性に乏しい (“not a reliable sign of DVT”)。

片側または左右差のある浮腫のみで受診することもあり、除外は難しい。他方、DVTを疑われた患者の3/4はDVTではないともいわれている。

DVT用のWellsスコア、D-dimer、下肢エコーを組み合わせて治療の要否を判断する。DVTの診断と治療も参照。

DVT以外の原因

UpToDate では、DVTではなかった患者の “leg swelling” の原因として以下が挙げられている。

  • 筋の損傷(外傷):40%
  • 麻痺肢の腫脹:9%
  • リンパ管炎やリンパ管の閉塞:7%
  • 静脈不全:7%
  • Baker 嚢胞:5%
  • 蜂窩織炎:3%
  • 膝の異常:2%
  • 不明:26%

Baker 嚢胞破裂

Baker 嚢胞(腓腹筋・半膜様筋滑液嚢腫)が膝窩に広がって膝後面に疼痛をきたすことがある。これが破裂した場合、症状や身体所見でDVTと鑑別することは難しく、超音波検査を要する。膝窩部や足関節外果に出血斑がみられることがあり、Crescent サインと呼ぶ。治療は抗炎症薬の処方のみ。数週間で改善。

蜂窩織炎

他の原因による浮腫が存在すること自体が蜂窩織炎のリスクになる(文献不詳、UpToDate の記載を意訳)。発熱などの全身症状があれば傍証となるが、DVTでも発熱しうる。静脈不全を背景に無菌性蜂窩織炎をきたすこともある。

慢性の片側下腿浮腫

片側または左右差のある下腿浮腫が慢性的に見られる場合、慢性静脈不全、リンパ浮腫、CRPSを鑑別する。これらは通常、臨床所見のみで診断でき、さらなる検査を要さない。

病歴や所見が上記3疾患に矛盾する場合には、下肢エコーを行い、静脈不全の証拠を掴むか、骨盤からの血流の閉塞がないかを確かめる必要がある。リンパ浮腫やCRPSでは、下肢エコー上の異常所見はみられない。

慢性静脈不全

疫学:女性に多い。年齢とともに増加
原因:一次性下肢静脈瘤、手術、外傷、DVT後遺症
検査:下肢エコーでDVTの有無を確認する
治療:塩分制限、体重管理、下肢挙上、運動、下肢加圧(弾性包帯や弾性ストッキング)。静脈瘤があれば手術適応となりうる。

患側肢の血栓性静脈炎の既往があったり、長期にわたると色素沈着や皮膚潰瘍が生じたりする。

リンパ浮腫

腫瘍・手術・放射線治療によるリンパの阻害、許容量以上の間質液貯留、蜂窩織炎、炎症(関節リウマチなど)、静脈還流不全、外傷・熱傷により生じる。真の edematous state ではない。浮腫性硬化により第2足趾の皮膚をつまめなくなることを指して Stemmer サインという。初期は pitting edema を呈しうるが、皮膚の線維化や脂肪組織の堆積とともに non-pitting edema に変化する。

鼠径・骨盤リンパ節の切除や放射線治療の既往がないか確認する。

CRPS (Complex regional pain syndrome)

外傷後6週間程度で、疼痛、浮腫、皮膚色・温度の変化を生じる。

急性の両側性下腿浮腫

一般的ではないが、以下が鑑別に挙がる。

  • 薬剤性(ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬 e.g. アムロジピン)
  • 急性心不全
  • ネフローゼ(acute nephrotic syndrome)
  • 両側性DVT(悪性腫瘍に関連する場合が多い cf. Trousseau syndrome)

両側性DVTの可能性を念頭に置いて Wells score を評価し、リスクに応じて超音波検査を行う。DVTが疑われない場合、他の鑑別を精査する。

慢性の両側性下腿浮腫

高齢者には頻繁にみられ、通常は慢性的。全身症状のない≧50歳の患者における慢性の浮腫の大部分は静脈不全か薬剤性である。

鑑別すべき疾患は、おおまかに「心・腎・肝・薬剤性」が主で、「甲状腺、低アルブミン」も考慮する。肺高血圧は見逃されやすい。

心不全と腎不全では頸静脈圧 (JVP) が上昇し、肝硬変や薬剤性では上昇しない。

慢性静脈不全

≧50歳では両側性浮腫の原因としても最多となる。ただし、概して “Overdiagnosed” されている疾患であり、ほかの鑑別を慎重に精査すべきである。

薬剤による浮腫

  • Ca拮抗薬:細動脈の平滑筋収縮↓により毛細血管への血液流入が増えて浮腫になる
  • NSAIDs, ホルモン系の薬 (ステロイドやいわゆるピル), チアゾリジン系糖尿病薬, 甘草:Na貯留をきたし、血管内Volumeが増えて浮腫になる
  • プラミペキソール、ペルゴリド
  • クロロプロマジン、ハロペリドール(セレネース)、ドンペリドン(ナウゼリン)、メトクロプラミド(プリンペラン):プロラクチン↑により浮腫をきたす

甲状腺疾患(Basedow 病、橋本病)

真の edematous state ではなく、グリコサミノグリカンの蓄積によって生じる。Pitting edema, non-pitting edema とも生じうる。Basedow 病では前脛骨部に限局する粘液水腫(非圧痕性浮腫)が有名。橋本病は全身性の粘液水腫症をきたす傾向にあり、全身がむくんで体重が増え心嚢液がたまる。

低アルブミン血症

Alb < 2.0 g/dL の著しい低アルブミンが急激に生じた場合(e.g. 微小変化群のネフローゼ)には、低アルブミンそのものによって浮腫を生じうる。ネフローゼ症候群は、アルブミン低値によらずとも、RAA系の活性化と尿細管でのNa再吸収の亢進によって浮腫をきたす。

蛋白漏出性胃腸症

両下腿浮腫+下痢で疑う。低栄養、腎からの漏出、肝疾患による蛋白合成能低下の除外が必要。炎症性腸疾患、心不全によるリンパ管拡張、慢性膵炎などが原因となる。

Tips

  • 3日以内の急性発症の局所性浮腫
    • 外傷
    • 血管浮腫
    • DVT
    • Baker嚢胞破裂
    • 蜂窩織炎
    • 結晶性関節炎(e.g. 痛風
  • 反復する急性発症の浮腫は、
    • 1~2時間:血管浮腫
    • 24時間以内:結晶性関節炎、リンパ浮腫+蜂窩織炎
  • 増悪と寛解を繰り返す慢性浮腫
    • リンパ浮腫
    • 月経に関連した体重の増減によるもの
  • 疾患と関連した浮腫の局在
    • 解剖学的に左下肢>右下肢で浮腫になりやすい
    • 麻痺やParkinson病の症状の強い側
    • 右臥位を好む場合の右眼瞼や右上肢の浮腫
  • 眼瞼浮腫と下腿浮腫が同時期に出現→血管浮腫、ネフローゼ症候群
  • 下肢挙上で改善→体位性浮腫、静脈圧↑による浮腫(循環不全、心不全)
    • VS ネフローゼ(低Albによる)、甲状腺機能低下
  • 年齢から考える
    • ≧50歳では両側性でも静脈弁不全が最多
    • 若年者では、睡眠時無呼吸、薬剤、月経関連が多い
  • Pit recovery time: fast edema vs slow edema のイメージ(正確な機序かはわからない)
    • Pit recovery time は血清アルブミン値と相関
      • 低Alb→間質の膠質浸透圧↓→血漿成分が流出しやすい→pit がすぐに戻る (fast edema)
      • 静脈圧↑→間質の水分が静脈に入りづらい→pit が戻りづらい (slow edema)

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