敗血症に対する昇圧薬・血管収縮薬

敗血症における臓器障害のメカニズムは明らかにはされていませんが、血管拡張と組織微小循環の障害による血流分配の異常が関与しているという説が提唱されています1。初期輸液とともに、血管収縮薬が頻用されますが、いわゆる「カテコラミン」に類するものが多く、経験の少ない施設ではややハードルが高いかもしれません。

本稿では、敗血症に対する血管収縮薬やそのほかの昇圧薬について、いくつかの成書の記載をまとめました。

血管収縮薬を開始するタイミング

昇圧薬をいつ開始すべきかについて、決着はついていません。2020年のガイドラインでは初期輸液と同時か3時間以内に、血管収縮薬を投与することを推奨していました (GRADE 2C)2。2024年版でもやはり早期からの血管収縮薬投与が推奨されていますが、時間は明記されていません (GRADE 2C)3

蘇生輸液(通説では 30 mL/kg 程度)の効果は30〜60分程度で消失しますし4、過剰輸液の害も指摘されています。血圧低値の持続、特に6時間を超える血管収縮薬投与の遅延は有害であることが示されており、例えばノルエピネフリン投与が1時間遅延するごとに死亡率が5.3%上昇するとの報告もあります5。投与開始の明確な基準はないものの、早期からの血管収縮薬投与を目指すのが現在の主流のようです。

必要な輸液量

血管収縮薬にも虚血性臓器障害などのリスクがあり、血管収縮薬投与量増加と死亡率増加の関連も指摘されていますが、2000mL 以上の輸液によって血管収縮薬投与による死亡率増加が緩和されるとの報告もあります6。石井の寄稿では、CLOVERS試験などを引き、およそ2Lの初期輸液後に循環不全が持続している場合には、血管収縮薬の開始は「少なくとも危険ではない」と結論しています7

投与経路

血管収縮薬の漏出は壊死をきたす場合があり、長期的には中心静脈路からの投与が望ましいのですが、遅れを回避するため、一旦は末梢静脈路から投与することが許容されます8

敗血症における昇圧薬選択の流れ

第一選択はノルアドレナリンです。ノルアドレナリンを増量してもいまだ循環を維持できない場合には、バソプレシンの併用を検討します。また、ノルアドレナリンの投与が長時間にわたる場合には、副腎皮質ホルモンの補充の意味も兼ね、ヒドロコルチゾンの投与を検討します。そのほか、心機能低下症例では、強心作用を期待し、アドレナリンやドブタミン、ミルリノンなどを使用する場合もあります。

敗血症に用いる薬剤

ノルアドレナリン

敗血症性ショックに対する昇圧薬の第一選択です(Grade 2D)9。α-1受容体を介して血管収縮を、β-1受容体を介して心拍数・心拍出量↑を促す物質ですが、心拍数への影響はごく僅かで、もっぱら血管収縮によって平均血圧を上昇させるとされています10

実際に調整する際の組成にはかなりバリエーションがあり、成書によっても施設によっても異なります。以下にいくつか例を示しますが、多くの場合は濃度 0.05〜0.06 mg/mL に調整し、0.05〜0.1γ (体重 50 kg とすると 3〜6 mL/h 程度) で開始します。

なお、通常、ノルアドレナリン1筒の溶液量は 1 mL で、ノルアドレナリン 1 mg を含みます。以下では用量・濃度の表記は極力出典に習いますが、すべて 1 mg/1 mL のアンプルを用いる想定です。

  • レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬
    • ノルアドレナリン (1 mg/1 mL) 3 mL + 生食 47 mL = 0.06 mg/mL, 50 mL
      →3筒を計 50 mL にする
    • 高用量を要する場合は、
      ノルアドレナリン (1 mg/1 mL) 15 mL + 生食 35 mL = 0.3 mg/mL, 50 mL
  • 内科レジデントの鉄則
    • ノルアドレナリン 2 mg + 生食 38 mL = 0.05 mg/mL, 40 mL
      →2筒を計 40 mL にする
  • 内科診療ことはじめ
    • ノルアドレナリン 3筒 + 生食 47 mL = 0.06 mg/mL, 50 mL
      →3筒を計 50 mL にする
    • ノルアドレナリン 5筒 + 生食 45 mL = 0.10 mg/mL, 50 mL
      →5筒を計 50 mL にする

以上のように合計 40〜50 mL に調製する場合はシリンジポンプで投与するのが一般的ですが、生理食塩水 100 mL のバッグにノルアドレナリン6筒 (6mg) を混注して 0.06 mg/mL とし、輸液ポンプで投与する施設も経験したことがあります。

0.06 mg/mL のほうが μg/分 への換算がしやすい、0.10 mg/mL や 0.05 mg/mL のほうが希釈の計算がわかりやすい、などのメリット・デメリットはありますが、効果に差があるわけではなく、施設で慣れた組成を選択するのが一番でしょう。

バソプレシン

敗血性ショックに対する血管収縮薬の第二選択です (GRADE 2A)11。抗利尿ホルモン ADH (Antidiuretic hormon; 文字通り「抗利尿」) として知られるホルモンですが(腎集合管のV2受容体)、末梢血管を収縮させる働きもあります(血管平滑筋のV1受容体)12。ストレスに応じて分泌されるホルモンであるため13、敗血症性ショックではすでに枯渇している場合が多く、その補充として投与します12

ノルアドレナリン投与量が0.25~0.5γに達した場合に追加を検討するのが一般的です15

アドレナリン

ノルアドレナリン同様のα-1, β-1受容体作動薬ですが、β-1作用による強心効果が強いと考えられており、心機能低下症例に対してもっぱら強心効果の増強を目的に投与されます16

ヒドロコルチゾン

初期輸液と血管収縮薬に反応しない場合、相対的副腎不全が併存している可能性があり、ヒドロコルチゾンの投与を検討します17。副腎ホルモンの補充という意義に加え、炎症を抑えたり、血管収縮作用があったり、血管収縮薬への反応性を改善したりと、複数の機序で昇圧をもたらすと考えられています。

ノルアドレナリンまたはアドレナリン 0.25γ以上が4時間以上必要な場合に投与を検討します18

そのほかの強心薬

ドブタミン、ミルリノンの投与を検討する場合があります。

参考文献

  1. 石井潤貴 場面1:初期蘇生 2. 昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p2991 ↩︎
  2. 日本版敗血症診療ガイドライン2020 CQ6-3 ↩︎
  3. 日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ3-6 ↩︎
  4. Mahmoud, A. et al. (2022). Timing of vasoactive agents and corticosteroid initiation in septic shock. Annals of Intensive Care. ↩︎
  5. Mahmoud, A. et al. (2022). より孫引き; Bai X, et al. (2014). Early versus delayed administration of norepinephrine in patients with septic shock. Critics Care. ↩︎
  6. Mahmoud, A. et al. (2022). より孫引き; Roberts, R.J. et al. (2020). Evaluation of vasopressor exposure and mortality in patients with septic shock. Critics Care Med. ↩︎
  7. 石井潤貴 場面1:初期蘇生 2. 昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p2996 ↩︎
  8. レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬; 日本版敗血症診療ガイドライン2024 ↩︎
  9. 日本版敗血症診療ガイドライン2024 ↩︎
  10. 石井潤貴 場面1:初期蘇生 2. 昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p2994 ↩︎
  11. 日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ3-7 ↩︎
  12. 島谷竜俊 場面2:ICU入室 3. ノルアドレナリンの次の昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p2998 ↩︎
  13. 内科レジデントの鉄則 p367 ↩︎
  14. 島谷竜俊 場面2:ICU入室 3. ノルアドレナリンの次の昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p2998 ↩︎
  15. 島谷竜俊 場面2:ICU入室 3. ノルアドレナリンの次の昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p2999 ↩︎
  16. 島谷竜俊 場面2:ICU入室 3. ノルアドレナリンの次の昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p3000 ↩︎
  17. 日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ3-8 ↩︎
  18. 島谷竜俊 場面2:ICU入室 3. ノルアドレナリンの次の昇圧薬 レジデントノート増刊 救急・ICU頻用薬 p3001 ↩︎

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