ビタミンB1は、肉、豆、穀物、野菜などに含まれ、十二指腸から吸収される水溶性ビタミンです。ATPの産生に関わり、2-3週間の摂食不良だけでも枯渇することが知られています1。
アルコール多飲者が十分に食事をとらなかった場合に欠乏しやすいことが有名です。


ビタミンB1欠乏のリスク
アルコール以外にも以下のようなリスクが知られています2。
- 妊娠悪阻
- 過剰な食事制限
- 悪性腫瘍(特に消化管と血液)
- 上部消化管手術後
- 利尿薬
- 甲状腺中毒症(代謝亢進による)
- HIV感染症
Wernicke 脳症
臨床所見
以下のうち2つ以上を満たした場合、Wernicke 脳症を疑う必要があります(Caine criteria)3。古典的三徴を太字で示しましたが、すべてが揃う例は3割にも満たないものと考えられます。
- 食事不摂生
- 眼球運動障害(外眼筋麻痺、眼振、前庭眼球反射消失)
- 小脳失調
- 意識障害
検査所見
画像所見
頭部MRI T2強調画像で、両側視床内側、第三脳室周囲、中脳水道周囲などに高信号を認めることがあります4。感度は5割程度から8割以上まで報告によって様々ですが、2019年の報告では感度91%とされているようです5。
ビタミンB1血中濃度
健診受診者の調査やWernicke脳症発症例の報告を総じて考えると、
- < 20 ng/mL:ビタミンB1欠乏の可能性が高い
- 21-27 ng/mL:なんともいえない
- ≧ 28 ng/mL:ビタミンB1欠乏は否定的
といったあたりを閾値に判断するのが妥当です6。
診断と治療
剖検例の研究で、Wernicke 脳症と生前に診断できていた症例はほんの15%であったことが明らかになっています7。補充のリスクはほとんどないため、疑ったら積極的に補充し、診断的治療を試みることが重要です。ビタミンB1 100 mg 投与で1-6時間以内に症状が改善した場合、 Wernicke 脳症が強く示唆されます8。
治療目的の補充プロトコル
成書により様々であり、エビデンスもはっきりしませんが、100 mg を超える量であれば意識性がが迅速に改善すると報告されています9。
- ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版
- 初回:500 mg
- 以後:100-300 mg/日
- 病態生理と神経解剖からアプローチするレジデントのための神経診療
- 1日目:ビタミンB1 (アリナミン) 500 mg + 生理食塩水 100 mL
30分かけて点滴静注 1日3回 (計 1500 mg/日) - 2日目:同上
- 3日目以降:ビタミンB1 250 mg + 生理食塩水 100 mL
30分かけて点滴静注 1日1回 (計 250 mg/日)
3〜5日間または臨床的な改善を認めるまで
- 1日目:ビタミンB1 (アリナミン) 500 mg + 生理食塩水 100 mL
脚気心
ビタミンB1欠乏によって末梢血管抵抗が低下することで生じる高拍出性心不全です10。ビタミンB1 100-300 mg/日の投与で直ちに改善することが知られています。
参考文献・引用文献
- ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版 p408 ↩︎
- ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版 p408; ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 p957 ↩︎
- ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 p957; 病態生理と神経解剖からアプローチするレジデントのための神経診療 p271 ↩︎
- ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版 p408 ↩︎
- ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 p959 ↩︎
- ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 p958 ↩︎
- 病態生理と神経解剖からアプローチするレジデントのための神経診療 p270 ↩︎
- ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 p957 ↩︎
- ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版 p409 ↩︎
- ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版 p409 ↩︎
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